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「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」とその応用

はじめに

まずは、このコラムでの最初の発言となるので、なぜコラム発信するかに関してお話しさせてください。
弊社設立は、2006年でした。創業時の想いは、
会社をつくるのではなく、研究室をつくろう。
経営課題の様々解決のための先進的な事例を試し、うまくいったことをモデル化して社会にサービスとして提供していこう。
でした。
月日が経つと、こうした想いがだんだん薄れ、気が付けば凡庸な「会社」になろうとしておりました。
そこで、初心に立ち返り、もう一度様々なチャレンジをみなさまへの発信という形でお伝えしていければと思い至りました。
今後は弊社経営陣中心に各々のテーマに応じて発信していく予定です。
第一回目のテーマは
「弱つながりの強さ理論(=SWT理論)」とその応用
についてです。
このテーマを研究されている先生方やビジネスパーソンには大変僭越ながら。。の内容となります点、ご容赦ください。

SNSと「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」

今、みなさまは、どんなツールで情報を収集し、人とのコミュニケーションをとっていらっしゃいますか。
おそらく、多くの方はfacebook,twitter,LINE,youtubeなどのSNSを活用されているのではないだろうか。と推測します。
実はこうしたSNSの効果性は主に社会学の分野で、数多くの研究者に研究されてきています。
その中でひときわ数多くの論文に引用されてきた理論に、「弱いつながりの強さ」理論(= Strength of Weak Ties theory)があります。
「弱いつながりの強さ」理論(= Strength of Weak Ties theory)は、スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノベッターが1973年に論文発表した理論で、人と人とのつながりの強さと弱さという関係性を基礎にしている。のが特徴です。

「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」とは

グラノベッターは、「弱いつながりの強さ」理論(= 以下SWT理論とよぶ)を発表した論文の中で、世の中の人のつながりを、
A.「お互いに共通の知り合いがたくさん存在している」強いつながり
B.「自分たち以外に、ほとんど共通の知り合いがいない」弱いつながり
の2種類に分け、「2つの点をつなぐ唯一のルート」をブリッジと呼びました。
ブリッジは、弱いつながり同士には多く存在し、逆に強いつながりにはブリッジが存在しない。
こうした特徴から、
ブリッジが数多く存在する「弱いつながり」は「幅広く、多様な情報が、遠くまでスピーディに伝播する」のに向いていて、
弱いつながりの人脈を豊富に持っていれば、「遠くにある幅広い情報を効率的に手に入れることができる」と説明し、これをもって「弱いつながりの強さ」と呼んだのです。

フェイスブックの研究で裏付けらされた「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」

この理論を裏付ける研究として、有名なものに、fecebook社が2012年に発表した2つの研究報告があります。
1つは、イーサン・バクシーらが中心となって、「どのようなつながりがある人が発信・シェアしたニュースが、更にシェアされやすいか」を解析した研究結果。
もう1つが、ラース・ベックストルムとミラノ大学研究チームの共同研究で、「友達の友達がつながる経由数」を研究したもの、です。

イーサン・バクシーらの研究では130日間、340万件のデータから、
a) フェイスブック上で頻繁に交流している友達が発信した情報をシェアしがち。
b) フェイスブック上の「友達」がある情報・ニュースをシェアした場合、そのシェアされたニュース・情報をその友達の友達がさらに周囲にシェアする確率は、
両者が頻繁に交流している場合より、両者に普段はほとんど交流のない場合の方が、はるかに高い。

というものであり、特にb)はSWT理論を裏付ける強力な後押しとなりました。

又、ベックストルムらの研究からは、全世界7.21億人(当時)のフェイスブックユーザーが友達の友達としてつながる経由数は平均4.7人ということがわかってます。
この結果は、1960年代に手紙の伝達で上記をような情報伝達の人数を広大なアメリカの2億人対象に確認したミルグラムの研究結果、平均6人よりも更に経由数が少なくなっています。

スモールワールド化とSNS

こうした、より幅広く、効率的に、遠くまで情報を伝播させられる状況を「スモールワールド」化と呼ぶます。
私自身、SNSが生み出すスモールワールド化を最も強く実感したのは、2011年の東日本大震災でのことです。
私の出身地が岩手県大槌町というところで、まさに津波の被害を最も受けた地域のうちの1つでした。
そんな場所あったけ?と思う方も、津波の写真で「建物に船が載っている写真」というと思い出していただけるのではないでしょうか。
地震発生からすぐに津波が発生。携帯は3日から1週間不通の状態が続きました。そんなとき、地元に住む父や姉弟家族の安否確認ができたのはSNSであり、当時TVでは報道されなかった現場の事実を伝えてくれたのがSNSでした。

「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」の応用、そしてイノベーションへ

SNSの効果性を説明しうる理論的な背景となったSWT理論。「なんだその言い回し」と突っ込みたくなる理論名ですが、SNSだけではなくこの応用範囲がにわかに広がりを見せてきました。

採用の世界での応用、その1つが古くて新しいリフェラル採用です。
リファラル(referral)とは「推薦・紹介する」という意味で、リファラル採用とは社員に人材を紹介してもらう採用方法のことを指します。
企業をよく理解している社員の紹介なので、より企業に適した人材を募集できる。 と注目を集めています。

SEMの観点ではキーワード近接度による「拡散ワード」。
キーワード広告やSEO対策を行う際に、単純にキーワードと商品の相性だけではなく、商品を購入したり、使ったりしている人たちのレビューに着目してキーワードの近接度を導き出す手法で抽出するキーワードです。
(先日某通信会社のレビューサービスでプレゼンし、役員からお褒めの言葉をいただきました。)

そして個人的に注目するのは、SWT理論の経営への応用。つまりイノベーション理論への活用です。
弊社では、今年度から実験を始めました。
「知の創造」と「知の進化」に着目した従業員の行動項目作成とその運用がそれで、中でも「知の創造」へのSWT理論の実践的活用がその核にあります。
機会あれば、ぜひこうした実験結果もこのコラムの中でご報告していきたいです。


June 10 , 2020
Shigenori Kurasawa

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